好色一代男
桜もちるに歎き、月はかぎりありて入佐山。爰(ココ)に但馬の国かねほる里の辺(ホトリ)に、浮世の事を外になして、色道ふたつに寝ても覚ても夢介とかえ名よばれて、名古や三左・加賀の八などと、七つ紋のひしにくみして、身は酒にひたし、一条通り夜更て戻り橋。1682年成立 井原西鶴
奥の細道
月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人なり。舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらへて老をむかふる者は、日々旅にして旅を栖とす。古人も多く旅に死せるあり。1702年成立 松尾芭蕉
曽根崎心中
げにや安楽の世界より 今この娑婆に示現して 我等がための観世音 仰ぐも高し。高き屋に 上りて民の賑ひを 契りおきてし難波津や みつづゝ十とみつの里 札所々々の霊地霊仏。巡れば 罪もなつの雲 あつくろしとして 駕籠をはや おりはのこひ目 三六の 十八、九なつかほり花 1703年成立 近松門左衛門
浮雲
千早振る神無月ももはや跡二日の余波となッた二十八日の午後三時頃に、神田見附の内より、塗渡る蟻、散る蜘蛛の子とうようよぞよぞよ沸出でて来るのは、孰(イズ)れも顋(オトガイ)を気にし給う方々。二葉亭四迷 元治元年,1887年成立 二葉亭四迷
吾輩は猫である
吾輩は猫である。名前はまだない。どこで生まれたか頓と見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。1905年成立 夏目漱石